【鶏鳴歌】 「严具」(厳具)って何?

四面楚歌の“楚歌”とは

「周囲が敵ばかりで孤立無援の状態であるさま」を形容する四字熟語としておなじみの「四面楚歌」。

秦滅亡後に項羽と劉邦が天下を争った楚漢戦争の最後の戦いである垓下の戦いで、漢軍に包囲された項羽が四方から聞こえてきた楚歌に驚いたという話がもとになっています。

この楚歌がどういう歌だったのかについては2つの説があり、ひとつは応劭による「鶏鳴歌説」、もうひとつは、顔師古による「楚人の歌説」があります。

それぞれのちょっとだけ詳しい解説については以下の記事【四面楚歌】項羽が垓下で聞いた楚歌とはにまとめてありますので、興味がありましたらぜひ読んでみてくださいね。

鶏鳴歌とは

項羽が垓下の戦いの時に四方から聞こえてきた楚歌とは具体的に何の曲だったのかについては、残念ながら垓下の戦いを記述している『史記』の「項羽本紀」や『漢書』の「高帝紀下」には書かれていません。

ただ、『漢書』に注釈をした後漢末から三国時代にかけての政治家である応劭は、「楚歌とは鶏鳴歌である」との見解を示していることが『史記集解』には記されています。

また、周王朝の習俗や政治制度、官位制度などについて記された『周礼』(しゅらい)によると、宮内には「鶏人」という官職があり、祭祀を執り行う際に犠牲として捧げる鶏を供する役割以外にも、祭祀や他の重要な行事がある日の朝に宮内の百官を呼び起こすという役割があったと書かれています。

出典は不明ですが、その百官を呼び起こす際には「鶏の鳴き真似」をしていたとされており、それがのちに歌を歌って呼び起こすようになったとされています。

その時に歌っていたのが『鶏鳴歌』になるというわけですが、これは漢歌であるとの意見もあります。

『鶏鳴歌』については『楽府詩集』の「巻八十三 雑歌謡辞一」に載っていますが、今回はその原文と書き下し文を『古詩源』「鶏鳴歌」(国立国会図書館デジタルコレクション)「コマ番号383」のページから引用してみたいと思います。

東方欲明星爛爛,汝南晨鶏登壇飛。

(東方明[よあ]けんと欲して星爛爛たり、汝南の晨鶏[しんけい]壇に登て喚ぶ。)

曲終漏尽厳具陳,月没星稀天下旦。

(曲終わり漏盡き厳具[げんぐ]陳[つらな]り、月没し星稀に天下旦[あした]なり。)

千門万戸遞魚鑰,宮中城上飛鳥鵲。

(千門万戸魚鑰[ぎょやく]を遞[おく]り、宮中城上鳥鵲[うじゃく]飛ぶ。)

この『鶏鳴歌』がどういう歌だったのかについてもう少し詳しく知りたい方は記事【四面楚歌】鶏鳴歌ってどんな歌?にちょっとだけ詳しくまとめてありますので、ぜひ読んで見てくださいね。

厳具(げんぐ)とは

さて、この『鶏鳴歌』には生きていく中で見る機会がほとんどない「厳具」(げんぐ)という単語が登場します。

「厳しい具」といわれても、なにか不味そうな具材か、拷問かなにかに用いるような恐ろしい道具を連想してしまいますが、先ほど『鶏鳴歌』を引用した『古詩源』「鶏鳴歌」(国立国会図書館デジタルコレクション)の解説によれば、厳具とは「いかめしき儀式の器具なり」という意味になり、何か厳かで重々しい、盛大な儀式に用いるものだということがわかります。

先ほど、周王朝の習俗や官位制度などについて記された『周礼』には、「鶏人」という官職の役割について、祭祀の生け贄に用いる鶏を供する以外にも、祭祀などが執り行われる日の朝に百官を呼び起こす役割もあると書きました。

そこから、この『鶏鳴歌』で描写されているのはきっと何か荘厳な儀式が執り行われる日の朝なのだと思われます。

句中の「厳具陳」(厳具陳[つら]なり)というのは、儀式に用いるため前日までに準備され整然と並べられた器具のことを指していて、そこから、まだ星たちがうっすらと残る夜明けの空とともに元の色をだんだんと取り戻していく様子が目に浮かんできます。

話は戻しまして、この「厳具」(げんぐ)とは「厳かな儀式に用いる器具」のことであるとしていますが、中国語の「严具」( yán jù )で調べて見ると、中国語の「严」( yán )には「衣装」「化粧、おめかし」という意味もあることから、「严具」とは「身支度用の道具」のことであるとしています。

「严」とは「厳」の簡体字になります。

これは、中国では目上の者、特に皇帝の諱(いみな、本名のこと)を用いることを忌避する慣習(避諱、ひき)があったためです。

この「严」( yán )もまた例外ではなく、後漢の明帝の諱(いみな、本名のこと)が「劉荘」だったことから、この“荘”を用いることを禁じられたのはもちろんのこと、これに通ずる発音の字を用いることも避けなければならなかった(嫌名、けんめい)と考えられます。

現代中国語と同音だったかどうかは定かではありませんが、現代中国語で考えた場合、“荘”は「 zhuāng 」と発音することから、同様に「zhuang 」と発音し“荘”に通ずる「装」や「」といった字が「厳」という字に置きかえらるようになったと「严」(百度百科)には書かれています。

このことから、中国語の「严具」(厳具)には「身支度用の道具」という意味ができたのだと思われます。

まとめ

以上のことから、「厳具」とは「いかめしい儀式に用いる器具」という意味の他にも、「身支度用の道具」という意味もあるということでしたが、『鶏鳴歌』に出てくる「厳具」は訳注の通りになるかと思います。

参照

『古詩源』「鶏鳴歌」(国立国会図書館デジタルコレクション)

「严具」(百度百科)

「严」(百度百科)

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この記事を作成するに当たって使用させてもらった画像のイラストレーターさんになります。

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