甘粛省の蘭州市に行くとよく「ブス」って言われる?!

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蘭州市(らんしゅうし)とは

中国西北部に甘粛省(甘肃省: gān sù shěng )という省があります。
あまり聞き慣れない省かもしれませんが、12の地級市と2つの自治州からなり、1982年には秋田県と友好協定を締結して現在も交流事業などが行われています。
前漢時代には匈奴( xiōng nú )の領土でしたが、霍去病( huò qù bìng )らの遠征で前漢の領土となり、三国時代には凉州( liáng zhōu )と呼ばれていて、あの悪名高き董卓( dǒng zhuō )の生まれの地でもあります。
その後はシルクロードの交通の要衝のひとつとなり、人々の往来が盛んになり、いわゆる「河西走廊」( hé xī zǒu láng :河西回廊)として中国と西域の少数民族を結ぶ重要な交通ルートでもあります。
甘粛省の敦煌市には世界文化遺産である「莫高窟」という仏教遺跡もあり、中国では、山西省大同市の「雲崗石窟」と河南省洛陽市の「竜門石窟」と合わせて「中国三大石窟」の一つになります。
その甘粛省の省都が蘭州市(兰州市:lán zhōu shì )になります。
蘭州市は人口300万人ほどの都市で、漢族の他に伊斯兰教( yī sī lán jiào :イスラム教)を信仰する回族( huí zú )などの36の少数民族が住んでおり、街を行き交う人の中には頭に白い帽子をかぶっている男性をよく目にすることができます。
ちなみに、秋田県秋田市や青森県八戸市とは友好都市の関係にあります。
漢の時代には金城郡が設置されていたことから蘭州は別名「金城」( jīn chéng )とも言われており、隋の楊堅の時代(583年)に金城郡を蘭州と改名して「蘭州総管府」が設置されてから今の名称となりました。
街は幅200メートルほどの黄河に沿って東西に細長く延びていて、中国では黄河が通る唯一の省都となっています。
12ある橋のうち、全長233.3m、幅7.5mある「中山橋」( 中山桥:zhōng shān qiáo )は蘭州市の観光名所の一つとなっていて、他にも「五泉山公园」( wǔ quán shān gōng yuán )や「白塔山公园」( bǎi tǎ shān gōng yuán )などまだまだ見どころはたくさんあります。
ただ、蘭州と言えばやはり蘭州牛肉ラーメン兰州牛肉面:lán zhōu niú ròu miàn )ではないでしょうか。
牛肉面または牛肉拉面( niú ròu lā miàn )は中国に住むイスラム教徒の料理である清真料理( 清真菜:qīng zhēn cài )のひとつで、牛肉と羊肝(羊の肝臓)と調味料で煮込んだスープが特徴のラーメンです。
また、かん水を使用していることで麺はコシが強く歯ごたえがあります。
ゆで上がった麺にスープを入れて、最後に薄切りにした牛肉を乗せれば完成ですが、よくパクチーが入っていることが多いです。
面の太さや形は店舗によって違いがあり、素麺のように細いものもあれば、5㎜ほどのものやそれ以上の太さのもあります。
ちなみに「兰州牛肉面」という呼称は蘭州以外で使われる言い方であって。牛肉ラーメンの本場である蘭州市では、そのまま牛肉面(牛肉拉面)や牛大碗( niú dà wǎn )といいます。
ちなみに私は蘭州市に行ったにもかかわらず、牛肉ラーメンを食べるのを忘れてしまい、なぜか卵チャーハン(蛋炒饭)とバナナ・リンゴを食べて帰ってきてしまいました。
蘭州市でよく聞く「chǒu sǐ le」
さて、そんな見所、食べ所たくさんの蘭州市ですが、私が初めて観光で訪れた時によく聞くフレーズがありました。
それは、「chǒu sǐ le」です。
中国語既習者の方ならすぐに想像がつくとは思いますが、中国語で「chǒu sǐ le」という言葉を聞くとまず思い浮かべるのはやはり「丑死了」(すごくブサイク・ブスだ)ではないでしょうか。
人にそんなこと言われたらかなりショックですが、この言葉、蘭州市に行くとかなり聞くことが多く、特に女性、高校生などの若い人たちが使っている印象が強いです。
私は見た目がだいぶ残念な感じなので(笑)、蘭州の街を歩いている時にこの言葉をふと耳にした時には「ま、そんなことを言われる日もあるかな」と、自分で自分の顔面偏差値の低さを慰めていたのですが
滞在日数わずか2日間で、1日に何回も 「chǒu sǐ le」「chǒu sǐ le」と聞こえてきたので、さすがの私も「俺ってそんなブサイクかよ!!」、「蘭州の人たちはどんだけ俺の顔が嫌なんだよ!!」と、冗談抜きでかなり気分が悪くなってしまいました。
電話越しに相手に「chǒu sǐ le」?!
気分がすぐれないまま中山橋や五泉山公園などの観光地を見て回り、夕方になったので宿泊する場所を探そうとバスで蘭州西駅まで戻ろうと公共バスに乗った時の話。
あるバス停でひとりの若い女性が電話をしながらバスに乗ってきて私の目の前の座席に座りました。
どうやら誰かと待ち合わせをしているのか、どこのバス停で降りるのかということで相手とちょっと言い合いになっているようでした。
ちなみに蘭州市、方言のせいなのか発音のせいなのか、日常会話がほとんどと言っていいほどに聞き取れません。
恐らくバス停の名前だと思うのですが彼女は少しイラ立った様子で地名かバス停らしき単語を一つ一つ相手に電話で伝えていました。
と、その時です。
「chǒu sǐ le !!」
蘭州市に来てからというもの、ボディーブローのように私の心とプライドを痛めつけてきたあの憎き言葉が私の耳に飛び込んできました。
電話越しに「chǒu sǐ le」??
これは相手の醜い見た目をいう「丑死了」 ではないのか?!
幸か不幸か、彼女の何気ない日常会話でそれは「ブサイク・ブスだ」という意味ではないということに初めて気付き始めました。
その後、彼女はそのまま電話を切るとバスを降りて行きました。
名前は分からないけど、ありがとう!!
まさか彼女も自分の会話が見ず知らずの日本人に聞かれて、しかもそれが誤解を解く決定的なフレーズになったとは微塵も思っていないでしょう。
ひとまず彼女のおかげで「chǒu sǐ le」が 「丑死了」 ではないことに気付けたのは大きな収穫でした。
「丑死了」 と「愁死了」
その後、無事に宿泊先を見つけることができたのですが、とにかく5年以上前と違って今の中国は少数民族の宿泊に対してちょっと厳しすぎるかなというのを感じました。
中国に滞在する場合、自分が今どこで寝泊まりしているのかというのを管轄の公安局に知らせなければなりません。
長期滞在であれば、引っ越しが完了したら24時間以内に管轄区の公安局で「臨時住宿登記」をしてもらい、その後、出入国管理局で「居留許可証」をパスポートに貼付してもらえば問題はありません。
旅行などの短期滞在の場合には、この「臨時住宿登記」はホテルなどの宿泊施設が代わりにやってくれるので心配は要りませんが
これによって宿泊施設の宿泊客の個人情報が管轄の公安局と共有されるので、いつ、どこに、誰(国籍や民族を含めて)が滞在しているのかという情報が逐一、公安局に知らされることになります。
私のような一般人であれば別にどこに宿泊しようが構わないですし、自分の現在地が公安局に知られたところで特に何かしらの被害を受けるというわけでもないですし、私の居場所を向こうが知ったところで何の利益もないので私は気にはしていないのですが
宿泊先で何回も聞かされたのは、「ウイグル族や回族の宿泊はNG」であったり、「彼らが宿泊すると公安局の人がすぐに駆けつけてくる」という話でした。
彼らは別に少数民族に対しての敵意や偏見があると言うわけではなく、とにかく警察沙汰になるのが面倒なので、結果として仕方なく少数民族の宿泊をNGにしているという感じで、商売する側からするとかなり不満そうでした。
ここで話すとかなり話が脱線するのでまた別の機会に・・・
そんなこんなで一日中歩いていたせいで足が棒になっていたので、宿泊施設近くの足つぼマッサージ(足浴)に行くことにしました。
40代前半のすごい気さくなおばさん、ではなく、年上のお姉さんに足を揉んでもらうことになりました。
彼女の話だとこれまで蘭州市を離れて住んだことがなく、しかも日本人に会ったのは私が初めてだと言っていました(なんか、申し訳ないwww)。
その時に会話の流れで蘭州の人がよく言う「chǒu sǐ le 」はどういう意味なのか聞いてみました。
すると「chǒu sǐ le」の「chou」は「发愁」(気が滅入る、嫌になる)の「愁」( chóu )のことで、例えば、こっちが何回も説明しているのに相手がわかってくれない時とかに「愁死了!!」と使うんだよと教えてくれました。
要するに自分の思い通りにならないことに対するいら立ちや不満に対して使うようで、日本語だと「面倒くさいなぁ」「いい加減にしてよ」という意味になるかと思われます。(詳しい方がいたら教えてください)
彼女曰く、特にこの蘭州では使う人が多いと言っていました。
私も中国のすべての都市に行ったことがある訳ではないので断言はできませんが、少なくとも私が行ったことがある都市の中ではこれだけ日常的に用いるのは蘭州が初めてでした。
発音の話
ちなみにこの「丑死了」 と「愁死了」。
「丑死了」 =「chǒu sǐ le」
「愁死了」 = 「chóu sǐ le」
「丑」は3声なのに対して「愁」は2声です。
中国語学習者の方はすでにご存じの方が多いと思うので復習や確認程度に読んでいただきたいのですが、もし3声と3声が続いた場合には前の3声は2声に変化します。
文法書で言うところの「変調」というやつですね。
「丑」 は3声、「死」も3声。
なので 「丑」 は2声に変化して結果として 「chóu sǐ le」 と発音されます。
「丑死了」 以外で例を挙げると、「显眼」 (xiǎn yǎn:目立つ、人目を引く)の「 显 」はもともと3声ですが、3声の「眼」が後ろに続くので2声(xián)に変化します。
話がそれてしまいましたが、この「丑死了」 と「愁死了」は発音が全く同じなので、聞いただけではどっちを言っているのか分かりません。
しかもそれによってこんな誤解が生まれるとは言葉ってやはり面白いなと思います。
いずれにせよ、その場の雰囲気や文脈で判断するしかないことになりますね。
なんて言いながら本当は「愁死了」と言っていると見せかけて「丑死了」と言っているという、そんな高等テクニックを駆使されている可能性もあるかもしれません。
それだったらショックだわwww
まとめ
もしも観光などで蘭州市に行って「chǒu sǐ le!!」 という言葉を聞いたら、それは“必ずしも”顔面をディスっている訳ではないということを覚えておきましょう。

※銅像そばでキマっているおじ様はわたしではありませんので(笑)
ちなみに後ろに見える山には寺院などの古い建築物の他にも入場料10元(約160円)の動物公園があるので興味のある方はぜひ。
イラストレーターの皆さん
この記事を作成するに当たって使用させてもらった画像のイラストレーターさんになります。
・「せいじん」さん - 女性のキャラクター
・「にゃんこ先生」さん - プンプンマーク
・「よろづや」さん - クローバーのライン