【故事成語】沉鱼落雁( chén yú luò yàn )

沉鱼落雁(chén yú luò yàn):あらすじ

川で洗濯をしている西施という女性を見た魚は、そのあまりの美しさに泳ぐのを忘れ川底へと沈んでいき、他国へ向かう道中に馬の上で琴を弾く王昭君という女性を見た雁は、羽ばたくのを忘れて地面へと落ちてしまったという話。

沉鱼落雁(chén yú luò yàn):故事

春秋戦国時代、越国に西施という女性がおり、とても美しい顔立ちで、その名は遠くまで知れ渡っていました。

浣沙女(川辺で絹物を洗濯する女性のこと)だった彼女は、川辺でいつものように洗濯をしていると、そこに一匹の魚が泳いで来ました。

すると、その魚は彼女のあまりの美しさに泳ぐを忘れてしまい、川底へと沈んでいきました。

また、前漢元帝の時代、匈奴の南侵に苦しんでいた元帝は匈奴との間に婚姻関係を結ぶことで友好関係を築いて平和を維持しようとしました。

そこで、 王昭君に白羽の矢が立ちました。

二度とは戻れぬ故郷をあとにし、彼女は深く悲しみました。

匈奴への途上、彼女は琴で別れの曲を弾き始めると、南の空を飛んでいた雁はその美しい音色を耳にしました。

ふと地上を見下ろすと、美しい女性が琴を弾いていました。

そして、そのあまりの美しさに雁は羽ばたくのも忘れて地面へと落ちていきました。

出典《荘子・斉物論》

《庄子·齐物论》「毛嫱、丽姬,人之所美也;鱼见之深入,鸟见之高飞,麋鹿见之决骤,四者孰知天下之正色哉?」

今回の故事成語である「沉鱼落雁」の故事は戦国時代に荘子(そうじ)によって書かれた『荘子・斉物論』に登場します。

『荘子』は内篇7篇、外篇15篇、雑篇11篇に分かれており、そのうち「斉物論」は内篇に含まれています。

『荘子』の内篇、外篇、雑篇のうち、後半の2篇は荘子による著ではなく、後生の人によって書かれた「偽書」とされています。

ちなみに、外篇の「天運」には「西施の顰みにならう」の故事成語としてもおなじみの「东施效颦」の故事も登場します。

そちらの方も下の記事「东施效颦」にまとめてありますので、ぜひ読んでみてくださいね。

「沉鱼落雁」は「魚を沈め、雁を落とす??」と、中国語だけ見ると何のことを言っているのか訳が分からないですが、その言葉のできたストーリーを知るとなかなか印象的ですぐに覚えてしまいますね。

女性のあまりの美しさに魚は泳ぎを忘れ川底に沈み、雁は羽ばたくのを忘れて落ちてしまうという話というのが「沉鱼落雁」の故事となっていますが、出典とされている『荘子・斉物論』を読んでみると、実際には違うことが書かれています。

詳しく見ていきましょう。

今回の「沉鱼落雁」の故事は、この「斉物論」に登場する「齧缺」(げきけつ)「王倪」(おうげい)の会話の中に出てきます。

「中国哲学书电子化计划 – 庄子 – 内篇 – 齐物论」「11」から原文を読めますのでどうぞ。

齐物论

齐物论: 大知闲闲,小知闲闲;大言炎炎,小言詹詹。其寐也魂交,其觉也形开,与接为构,日以心鬭。缦者,窖者,密者。小恐惴惴,大恐缦缦。其发若机栝,其司是非之谓也;其留如诅盟,其守胜之谓也;其杀如秋冬,以言其日消也;其溺之所为之,不可使复之也;其厌也如缄,以言其老洫也;近死之心,莫使复阳也。喜怒哀乐,虑叹变慹,姚佚启态;乐出虚,蒸成菌。日夜相代乎前,而莫知其所萌。已乎已乎!旦暮得此,其所由以生乎!

齧缺とは古代中国に存在していたとされる賢人であり、王倪はその師にあたります。

その会話では弟子の齧缺が王倪に3つの質問をします。

①「子知物之所同是乎?」

②「子知子之所不知邪?」

③「然则物无知邪?」

そのすべての質問に対して師匠の王倪は「わかるはずがない」と答えています。

これらの質問の現代語訳を調べて見るとさまざま出てきますので、下のリンクからぜひ読んで見てくださいね。

齧缺(げきけつ)と王倪(おうげい) (1)

9 齧缺と王倪1 (1)知と不知

また、中国語の記事を調べていてもさまざまな訳があり(コピペ記事多すぎwww)

特に①に関して言えば

「先生は物事には相互に同じくするところがあるのをご存じですか」

「先生は万物には共通の道理というものがあるのをご存じですか」

「先生は万物がみな等しいということをご存じですか」

などなどさまざま出てきます。

荘子の「万物斉同」(ばんぶつせいどう)は、「万物は“道”という観点からすればみな等価である」という思想ですからそういう風に意訳するのかなとは思います。

また、「华语网」齐物论などにある注釈では、「所同是」とは「互いに同じくするところ」とし、つまり「共通点」としています。

日本語では「是」を「正しい」とか「是(ぜ)」とよく訳されているように思いますが、この中国語の「是」には「像,似」(似ている)という意味もあるらしく、この場合、「等しい、同等である」とも捉えることができると思います。

なので中国語での現代語訳をみると「共通の」とか「等しい」と訳されているのはどこか納得がいきますし、また、辞書を引くと日本語の「似る」には「性質・状態などがほとんど同じである」という意味もあることから、「万物斉同」の思想から考えれば自然な感じがします。

話がだいぶそれてしまいましたが、弟子の齧缺の質問に対して王倪は「わからない」と答えています。

そして、今度は王倪がさまざまな例え話を挙げながら話し始めます。

①人間、ドジョウ、サルの中で、誰が住む場所の快適さを最も理解しているのか

②人間、シカ、ムカデ、フクロウやカラスの中で、誰が食べ物のおいしさを最も理解しているのか

③人間、魚、鳥、シカの中で、誰が毛嫱や麗姬の美しさを最も理解しているのか

この例え話の3つめに毛嫱麗姬の話が出てきます。その部分についてもうちょっと詳しく見ていきましょう。

「沉鱼落雁」の故事では西施と王昭君が美女として登場していますが、実際には毛嫱と麗姬のことを指しているというのが分かったと思います。

次に、その部分がどのように書かれているのか日本語で見てみましょう。

「毛嫱、丽姬,人之所美也;鱼见之深入,鸟见之高飞,麋鹿见之决骤,四者孰知天下之正色哉?」

(毛嫱や麗姬を人は美しいと言う。魚はこれをみて沈み、鳥はこれを見て高く飛び(去り)、鹿はこれを見て逃げていく。四者(人、魚、鳥、鹿)のうち誰が真の美しさを理解しているというのか)

毛嫱とは越国の絶世の美女で、越王の勾践( gōu jiàn )の妾であったと言われています。「麗姫」は「驪姫」とも言われており、戦国時代の晋国献公の夫人でした。

毛嫱や麗姬を人は「美しい」とか「きれいだ」とか言って近寄ってくるのに、毛嫱や麗姫を見た魚は水中深くへと潜って逃げていき、鳥は高く飛んで去って行き、鹿は走り去っていってしまう。

住む場所の快適さも、食べ物のおいしさも、人の美しさも、結局のところは人間の相対的で主観的なものでしかないわけだから、人間の狭い価値観と頭の中だけで考えている物事の「善悪」や「是非」もこれと一緒で、結局のところはそれが正しいのかどうか分からないということです。

なので王倪も最後にこう言っています。

「仁や義(の端緒)、是非(の道筋)というのはごちゃごちゃしていて私に区別がつけられるわけがない」

ちょっと深掘り

さっきの例え話の3つめに出てきた「麗姫」についてちょっと深掘りしていきたいと思います。

紀元前7世紀頃の春秋時代に存在していた戎(じゅう)族という部族の一派の中に、現在の陝西省西安市の東側を拠点としていた驪戎(れいじゅう)という部族がいました。

その部族の国君の娘であったのが麗姫で、「驪姫」とも呼ばれていました。

麗姫は紀元前672年に驪戎が晋国との戦いに敗れたために和議の印として晋国の献公に送られ、その際に妹の「少姫」も同様に晋国へ送られたとされています。

麗姫は絶世の美女としても知られており、驪戎側が「美人計」として意図的に麗姫を晋国へ送ったかどうかは別として、実際、麗姫を迎えてからの晋国は一時的に衰退することとなります。

晋の献公にはもともと「重耳」「夷吾」「申生」という3人の息子がおり、麗姫との間にも「奚斉」が生まれました。ちなみに麗姫の妹の「少姫」にも「卓子」という子どもが生まれています。

そして、紀元前657年から約6年にわたる政治闘争である「丽姬之乱」( lì jī zhī luàn:麗姫の乱または驪姫の乱が起こることとなります。

麗姫の乱(驪姫の乱)の詳しい内容については下記の記事「麗姫の乱」(驪姫の乱)にまとめていますので、ぜひ読んで見てくださいね。

「麗姫の乱」(驪姫の乱)の後の晋国は他国に対して恩を仇で返したりなどして徐々に衰退していき、最終的には秦国に従属することとなってしまいました。

例文

大家都说她有沉鱼落雁之容貌。

她有着沉鱼落雁的美貌。

那女子有沉鱼落雁的美貌。

她有沉鱼落雁的魅力。

李小姐那沉鱼落雁之容貌吸引了很多人的目光。

類義語

国色天香( guó sè tiān xiāng ):[喩]艶麗な女性、もとは牡丹の異称、または牡丹の美しさを形容する言葉

倾城倾国 ( qīng chéng qīng guó ):傾城(けいせい)の美人、絶世の美女

眉清目秀( méi qīng mù xiù ):(男子の)眉目秀麗であるさま、「眉目清秀」( méi mù qīng xiù )ともいう

対義語

其貌不扬( qí mào bù yáng ):人の容貌が醜いこと、風采があがらないこと

イラストレーターの皆さん

この記事を作成するに当たって使用させてもらった画像のイラストレーターさんになります。

「せいじん」さん - ネコ

「miho」さん - パンダ

「モモザ」さん - 片手にスマホの女性

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